ここからは私が見聞きした情報、経験に基づく話になります。ではどんな業界であれば日本人がアメリカでの就学を経て現地企業に就職できるのか。現実的な問題を考慮すると新卒、業界経験のない日本人人材の若者の少なくない人数が会計事務所に就職しているイメージがあります。もちろん私自身がその業界にいるから他が見えていないだけであることもあるでしょう。中にはIT関連に就職する方や人材会社に就職する方も人づてに聞いたりはしますが会計業界に比べると多くはない感じはします。その一方で大卒や院卒からではなく日本でスキルをすでに習得していて職務経験のある方はそのスキルに応じてさまざまな仕事をされています。医師、看護師、美容師、歯科技工士、金融実務、レストラン接客、飲食店経営、不動産経営、税理、会計、弁護士、経理、営業、、、、それはもう様々です。彼らのビザの取得経路も同じく様々かと思います。
同じ「アメリカで職探しをする日本人」といっても属性として大卒、技術や職務経験の有無、ビザの有無、英語能力、とさまざまな重要要素があり、ひとくくりに考えるのは難しいのです。
私は自分で就職先をアメリカで探す際はボストンキャリアフォーラムなどのフォーラムで企業を探しました。条件としてはアメリカでの現地就職に限ったわけですが、2013年時点、無数にある大手日本企業群を含めその条件に該当する会社自体が「大手、中堅会計事務所、日本企業現地子会社の経理、大手国際金融機関のアメリカ現地職」しかなかったのを覚えています。ほかの就職先はどれもこれも「日本採用」だったわけです。アメリカの企業である外資投資銀行の採用もありましたが東京オフィスの人材向けでした。それほど日系フォーラムには現地採用はありませんでした。 日本企業は英語ができる人材は欲しいが、幹部候補待遇としてまず日本で働かせるためでないかと思いますが、それでは日本人の現地採用が難しいその理由、そして就職先が限られる理由を自分なりに考えてみました。
1.ビザがない:まず前提ともいえる問題ですが、アメリカに限らず海外で働くにはその国のビザが必要となります。アメリカ生まれの(日本育ち)日本人という人たちもいて、そういう方々はすでにアメリカ国籍も持っており何の問題もないのですが、まず日本国籍の日本人である以上どれほど能力があっても「ビザ、もしくは労働許可を取得する」という過程に突き当たります。
2.言語の壁がある。同じ業務を依頼するなら仕事上の意思疎通が十分とれる人材であり、ビザサポートなどしてでも雇う価値のある人材、でなければ現地アメリカ人を優先して採用します。大学4年間などの米国生活を通じても現地アメリカ人と同程度の言語力を身に着けるのは多くの学生にとって至難の業といえるでしょう。
3.職務経験がない場合であれば、単純に職務に必要なスキルがないということで企業から必要とされないということが当然起こります。技能の確立されていない大学の新卒であってもそれに近い状況でしょう(そのため大学生はまず企業のインターンシップなどで実績を積むのが市民であるアメリカ人であっても普通です)。ビザがない場合、アメリカ国内でのホワイトカラーの就職は輪をかけて難しくなります。逆を言えばに強いスキルがあれば上記のようにビザなし、英語が不自由だとしてもビザサポート支援の上、雇用してもらえることもあるでしょう。具体的にどのようなスキルがあげられるかといえば、有名な分野でIT関連、日本人を扱う人材エージェント、データサイエンティスト、医療関連、和食の調理技術、会計関連、法務関連などでしょうか。もちろん分野ごとにニーズが違うでしょうから探してみればもっといろいろな専門分野で就職が可能だと思います。いずれにしても就職は「需要と供給」です。どんなに難しい資格やスキルであってもアメリカの現地企業が必要としていなければ就職には役に立ちません。
では上記の壁を乗り越えた上で、どのような分野に日本人のニーズがあるかを考えてみます。
上記の1ではじかれてしまう日本人人材がまずあまりも多い点を受けてですが、ビザがなくても日本人を受け入れたい業界はいくつかあると思います。日本語や日本の文化を理解する日本人を必要とする業界です。日本人の現地就職を斡旋する人材会社はそのひとつです。その業務で斡旋人材の対象となるのはすでにグリーンカードなどのビザを持っている日本人や、一定の業種で業務に精通する人材がほとんどかと思いますが、人材会社のスタッフは日本語や日本文化を理解する人間である必要があり、日本人人材に対する一定のニーズがあります。和食の職人も同様ですが、普通は日本で修行をしてからくる方が多いイメージはあります。また、アメリカの監査業界も多くの日本企業(アメリカ子会社)を顧客として抱えており、日本人人材へのニーズがあります。会計、監査といった分野は世界的に共通の基準がある程度存在しているため、他国で経験のある人材がアメリカで同じ分野働くことが技術的には可能なことが多いです。
一般的にアメリカ現地にある日本企業も現地にいる日本人を雇う傾向があります。日本の文化を理解しているということと、現地に派遣される日本人の経営陣の意思疎通しやすいということで好まれるということかと思います。
さて、それではこういった日本人を必要とする企業がビザサポートをしてまで日本人を雇いたいか、といえばまたそれも企業の状況とその当事者が持つスキルによるかと思いますが、もしビザをもっているのであれば雇ってもらいやすい業界があることは確かです。
すでにH-1Bやグリーンカードなどのビザを持っている人材であればもっている技能に応じ、日本企業に限らず現地企業への応募、就職できる可能性もあります。IT分野でプログラミング技術などを身に着けている外国人人材がアメリカの現地企業間を転職している話は聞きます。IT分野について少し記述しますが、個人的に名前の知っている人がアメリカの大学からアメリカの企業に直接入ったという話は聞いていませんが、知り合い伝いにはそういった外国人が多い(特にインド人の応募は非常に多いらしい)という話は聞かれます。やはり今一番伸びている業種ともあって給料も高く、技術があればどこの国の人間だろうとほしいというのが企業の本音であろうということは分かりますね。ではビザの抽選に打ち勝つという目的において会計業界とどちらが有利なのか、という質問が来た場合、私が知りうる限りは「特に違いはない」と答えてしまうと思います。というのも抽選は業種ごとにやっているわけでもなく、純粋に抽選であるからです。もしIT業界の応募人数が膨らみ続けて、「その他の業界の方々の割当は全体の5%くらいになりそうですね」なんていうデータが出たとしても抽選上、当たる確率は変わらないと思います。
労働環境の大きな違いとしては何と言っても、IT業界はほとんど日本語を使用することはないはずです。もちろん日系の会社であればその限りではないですが、多くは外国企業への応募かと思いますのでその場合、自身のスキルと英語力でキャリアを積んでいくこととなります。
会計業界についていえば、ITに比べれば日本語を話せる人々を受けれ入れているという土壌があります。もちろん現地企業の経理の話ではありません。主には大手の会計事務所を始めとした日本企業を専門に受け入れているチームや、日本企業専門の会計事務所、また日本企業のアメリカの子会社も経理に限らず日本人を受け入れていることがあります。つまりアメリカで元気に商売をしている日本企業もあるし、会計を専門としたグループの日本人が固まって棲息しているという実態もあります。一種のコネのようなものとも言えるでしょうか。そういった意味では新たな在米日本人達への席が用意されており、入社のハードルが他の業界よりも低いようにも見えます。
以上が考察ですが、もちろん私が気づいていないだけで日本人が活躍するアメリカの職場もあることだと思います。もしお気づきの点があれば教えていただけるとありがたいです。
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