ニューヨーク近郊の会計士 仕事日記 12 会計監査はAIにとって代わられるのか?

ニューヨーク近郊の会計士の日記

監査実務のシステム使用による高度化という意味で基礎的な会計、監査の知識を付けていくスタッフの育成の場が少なくなって可能性があります。末端の雑務がAI技術に置き換わっていき、出てきた資料を確認するレビューアー(会計の正誤が確認できる人間)の仕事が主なものになっていく可能性が高いからです。

もっと先の未来でより一定の会計システムの普遍化とシステムの統合が進んだ場合、ほとんど間違いやイレギュラーも見つからなくなってきて、さらに大枠の企業の会計ポリシーが適切かどうか、そしてそれが会計システムに適切に反映されているかどうかを見るより高いレベルでの仕事が監査人の主業務になってくるかもしれません。そうなってくると一定の企業監査の経験を積み、会計ガイダンスを熟知した理解した人間のみ(となっていくと会計事務所のスキルレベルとしては一般的にはマネージャー以上となってきます)が監査場面での登場人物となり、当局が発令する新しい会計ガイダンスの適用の仕方であるとか、減損分析であるとか、経営陣による会計上の見積もり科目の計算など、高度な会計判断による仕訳などを企業の会計担当者と話合うくらいしか監査実務が残らない世界となるかもしれません。

もちろん、システム化が進んでも一定の監査手続きは残ると思いますがAI技術は仕訳テスト、証憑突合、確認状や銀行残高通知などの残高確認、各種レターなどの書類確認、契約書などの要件確認などのそうしたチェック機能と非常に相性がよく、そういった手続きにおいて人間よりもはるかに速く、優れた対応をする可能性が高いと思います。またAI技術ではありませんが、現在自動化されたシステムとしてPDFや写真データをエクセルに効率よく流し入れてくれたり、PDFの契約書などの要約を作成するシステムがすでに稼働しています。このような現在人間がマニュアルで使用している機能も将来はAI技術が取り込んでさらなる自動化を実行できるようになっていくかと想定できます。現段階ではあまりにも人間がエクセルなどを使用したマニュアルでの計算によるデータを多用しているため、少なくともこうした部分への監査の必要性はすぐにはなくらならないでしょう。しかし、AI機能への置き換わりが進む仕事はこれから確実に増えていきます。

チーム編成の例を出すのであればパートナー、マネージャー、シニア、スタッフx2の5人チームだった場合、こうしたAI補助が浸透すれば下のスタッフ2名は不要になり、シニアがAIを使いこなし、手続きの実行や雑務を務めるような感じなるでしょうか。少し大きなチームになれば繁忙期にパートナー、マネージャーx2、シニアx3、スタッフx4くらいの10名チームで編成されていたものが、パートナー、マネージャーx2、シニアx2、の半分くらいになるでしょうか。もしかしたらスタッフが1名入ってAIの運用等を行うようなるかもしれません。とにかく雑務に近い仕事やシンプルな突合作業などは消えていき、手続きの結果確認などのレビューができる人間が中心の編成となるはずです。僕が監査マネージャーとしてチームの編成を任されたらそのようにすると思います。

AI技術の限界

しかしどこまでAIによるシステム化が進んでいったとしても、最終的にその企業の会計を理解し、税務を理解し、その数字に責任を持つ会計担当者と、またそういったプロセスを正しいと承認する監査人の役割というものは機械に置き換えることはできないわけで、必要な人員は少なるにせよその仕事自体がなくなる可能性は低いと思います。それが指し示すところは一定以上の会計知識を持つ人間はまだ必要とされる一方で、エントリーレベルの会計担当はAI等の技術に置き換わっていくのではないか、と見ています。ではどのレベルの専門性がその線引きとなるか、というのは難しい議論になりそうです。

現状、AIが状況に応じた高度な会計判断と、安心できる手法を顧客が満足いくように回答したり、サービス対応できる目途はたっていません。そういった意味で高度で複合的な情報を提供する会計アドバイザリーやその他関連のコンサルティング業務という仕事はそうそう完全に機械にとってかわられることは非常に考えにくいです。何と言っても現行のAI技術では人の話したり書いたりしたものの意味を理解することができません。したがって複数の複雑な事象を総合的にとらえ、それに応じたクライアントが望んでいるアドバイスをすることはAI技術には不可能なのです。ChatGPTのようにだんだんと複雑な質問に回答を出していくことは可能でしょう。しかしプロが、何かしらのプロに対して、それに満足するような十分で正確な回答を用意することはできません。

結局のところ現行のAIにはいくつか致命的な欠点があります。AIは一定のルール内、たとえばチェスや碁などでは非常に強力な力を発揮し、人間の能力をはるかに上回りますが、基本的に制約の少ない実世界、とはいえ、同時に非常の多種多様で複雑なルールと、それに対する自由が存在する我々人間の実生活や実務においてはAIはうまく機能できません。ルールや制限(それも相当に強い制限)がないとAIはうまく動けないのです。

また同様の理由で幅の広いコミュニケーションはAIに取ることはできません。複合的に状況を理解し、適切な答えを出す能力においても現行のAIにはまだ一般実務的なコンサルティングレベルに細かい条件を考慮させることはできません。そして至る場面でAIは保守、セキュリティ上のメンテナンスが必要となり、実務に耐える柔軟性を発揮するのは難しい状況です。AIはデータの処理において、情報検索などはるかに人間を上回る機能がある一方、AIが持っている能力は数学的な論理、確率、統計しかなく、物事を人間のように理解することは今だ不可能ですし、人間のように物事を理解させるアプローチを機械などの無機物に行わせる事も実現不可能の段階です。よってさまざまな要件や状況をすべて加味した上での最終的な判断は、現在考えうる限り人間にしかできないと思われます。

ChatGPTの登場と、その圧倒的な情報出力能力を目の当たりにして世間では安易に仕事がなくなるような騒がれ方をしているかもしれないですが、そんな簡単には会計や監査という分野は機械に奪われないでしょう。確かにシステムにデータを入力するだけのシンプルな仕事が人間にとって代わられるのはもう間もなくだと思いますが、その入力されたデータを高い視点から確認し、さまざまな要件を含め判断を下す仕事は少なくともまだ人間の領域です。特に監査の意見やそれにまつわるアドバイスについては機械にはまだ代替不可能ですし、その目途もたっていません。

アドバイスなども含めクライアントとコミュニケーションを取るという分野は機械が行うことはできません(クライアントの安心とニーズを満たせるレベルでは、という意味ですが)。ビジネスに携わる者として最先端の技術はいつも意識する必要はあるものの、結局は企業経理、会計監査という専門分野を持った人間しかできない仕事がなくなることはない、というのが差し当たっての僕の結論となります。

次ページ:最後はタイトルの質問を実際にChatGPTにしてみたら?

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