ニューヨーク近郊の会計士 仕事日記 12 会計監査はAIにとって代わられるのか?

ニューヨーク近郊の会計士の日記

こんにちはー 駆け出しブロガー会計士、らーきいです。

現在USCPA監査人としてアメリカのニュージャージー州の会計事務所にて主に日系企業の監査、レビュー業務に携わっています。

昨今ビジネスへのAIの普及が話題となっていますよね。企業へのRPAの導入も進んでいるようですし、最近登場したChatGPTなどの技術も従来は人間がやっていた業務を何かしらの形で減らしていくことは将来的に間違いないのかなあ、と思います。

さてAIは僕のいる会計業界にも影響を及ぼすのでしょうか、そしてそれはどのような形なのでしょうか、僕が知る限りの独断と偏見でお話したいと思います。

僕はUSCPAとして非上場企業の会計監査を専門としています。AIは本を読んで少し知っている程度なのでその上での予測であることはまずご承知おきください。

また、経理業界と監査業界では一般的には似て非なる(業界にいれば全く違う)ものですが、どちらの業界にもまずAI技術による影響が遅かれ早かれ起こることは間違いないと思っています。しかしこの影響で早急に、そして大幅に経理や監査に関する人員の削減が行われるか、というとそれはすぐには想像できません。

企業経理の変化

経理業務について言えば企業が5人でやっていた一定の経理業務を3人でやる、とか10人の経理チームが半分になる、といった変化がだんだん起こるようになるのではないでしょうか。大きな企業であればそういった動きはもっと早いかもしれませんが、ある程度の基幹業務やマニュアル業務はそうそうAI技術には置き換わらないと思いますので、そもそもの人員が少ない中小企業の経理業務などにはAI技術の波が来たとしてもそれにより人を減らせるような状況にはなりにくいと考えています(2人での経理作業が1人になる、など)。

経理業務の仕事は仕訳の入力からデータの管理、経理データの収集に関わるその他社員とのコミュニケーション、月末の数字管理や締め業務、報告書類のまとめ、などかなり多岐にわたると思います。こうした数多くの業務からAIに代替可能な業務がだんだんと増えていき、人間はAIが処理して計算されたものを確認する業務が増えていく、というのがあり得そうな将来像でしょうか。

特に仕訳をしていく業務は購買や支払い、入金などがされて時点でそのシステムと直結された帳簿システムに自動的に入力されていき、経理のために人間がマニュアルで記帳をしていく時間は減っていくでしょう。そういう意味ではただ単純に数字を打ち込むブックキーパー的な業務は淘汰されていく一方、その数字の組み立て、取り扱い、最終的な確認や、経理記録が正しいかどうかを確認するための人間はどうしても必要になりますので、パッと思い浮かぶ「すべて機械がすべての経理情報を算出してCFOが見るだけ」というのは起こらないと思います。会社の大小はあれ、その数字の編成の仕方や、システムが間違った数字の組み入れなどをしたときにそれを正誤を正しく理解し修正を行う能力のある人間が必ず必要になるからです。取引内容が増えれば増えるほど、複雑な取引が多くなればなるほど各経理ポイントでそれらを確認する人間が必要になります。

監査業務の変化

企業の経理の作った数字を監査する、会計事務所の仕事場面を想定するとどうでしょうか。おそらく将来的には統一された記録システムから試算表や各種帳簿データをもらい、それを一定のテンプレートに流し入れることで半自動的に監査手続きを行ってくれるような仕組みは未来のどこかの時点で登場するのではないかと思います。それにより今まで監査スタッフがマニュアル作業していた業務は相当に短縮されるはずです。

同時に現在は監査スタッフが手分けしてやっている各科目のテストに対してかかる時間は減っていき、システムが反映させられなかったポイントやシステムが捉えた会計的なイレギュラーをさらに追及していくのが、監査人が判断力を用いる仕事(一部は機械が判断できるかもようになっている可能性も)となるでしょう。

そういったシステムを適切に使いこなし、システムが見つけたおかしな点に対して何がおかしいのかを理解し、適切に顧客へ質問をしていくレベルの知識がスタッフにとって会計事務所入所当初から必要となるかもしれません。現在の1年目スタッフやインターンは会計の基礎を大学や以前の職場で理解していれば耐えられる業務内容でしたが、将来そのような事が想定されるのであればより高いレベルの監査視点やシステムの取り扱い知識を持っていることが、会計事務所に就職するための基準となっている可能性があります。そういった意味では大手の会計事務所では採用対象者はすでに会計監査の実務をこなしたシニア、もしくはマネージャーレベルの候補者となっていく、というようなことも起こり得るかもしれません。つまり大学を出たての実務経験がない人は採用対象になれないという事態です。

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